映画『LIFERS ライファーズ―終身刑を超えて』

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「刑務所とアート」を先駆的に追いかけてきたドキュメンタリー映画監督・坂上香さんの最新作『プリズン・サークル』が、9月に公開されるということで、改めて坂上さんの2004年の映画『LIFERS ライファーズ―終身刑を超えて』を見てみました。

おそらくTSUTAYAなどのレンタルビデオ屋さんでは手に入らないので、私のおすすめは「矯正図書館」(東京都中野区)です。視聴覚資料として収蔵されているので、そこで視聴ができます。

あらすじ

まずは、本作品『LIFERS ライファーズ―終身刑を超えて』のあらすじを確認します。

本作品のタイトルにもある「LIFERS ライファーズ」とは、「終身刑、もしくは無期刑受刑者」を意味します。本作品の制作当時の2002年、アメリカ・カリフォルニア州では、300万人を超える受刑者が収監されており、そのうちの10万人がこの終身刑受刑者、すなわちライファーズだったのです。

本作品が中心的に取材をしたのは、民間団体の「AMITY(アミティ)」が実施している更生プログラムです。このアミティが実施するプログラムは、他の刑務所のプログラムに比して参加者の再犯率が低いことで知られています。具体的なプログラムの内容としては、参加者同士で「自分がなぜ罪を犯すに至ってしまったのか」といった問いについて、過去の経験を本音で語り、自らを周囲に全て曝して対話を重ね、「どのような未来を生きていきたいのか」というビジョンを築いていくものです。

この対話の場をディレクションするアミティの職員もまた、服役経験を持った人で、当事者がこうしたプログラムに介入することの重要性も指摘されています。実際に、参加者が出所後にアミティで働くといったケースも紹介されていました。

中心となる舞台は、アメリカ・カリフォルニア州のRJドノバン刑務所で、中心となる人物は殺人の罪で終身刑となったレイエス・オロスコです。その他にもアミティの創設者ナヤ・アービター、レイエスと同じくプログラムに参加するケルビン・ゴーシュン、その兄のチャールズ・ゴーシュン(元受刑者でありアミティのスタッフ)、ドノバン刑務所でアミティのプログラムに参加し、出所後にアミティのスタッフとなってランカスター刑務所の施設内ディレクターとなったジミー・キーラーなど、さまざまな登場人物たちの取材がなされていました。

※以下、ネタバレ注意でお読みください。

ライファーズたちの多面的な姿

私が感じたこの映画の良い点は、ライファーズたちが多面的に映されていることです。

映画の冒頭は、ライファーズたちが参加するアミティのプログラムの様子から映されます。そこでは、アミティ創設者のナヤ・アービターのファシリテーションにより、受刑者たちが互いに良い所を笑顔で指摘し合う和やかな光景があります。この対話の場が、安心して自らをさらけ出せる場所であること、本音を語れる場所であることとして、「サンクチュアリ」の重要性が語られます。

そして、受刑者たちがこれまでそのような安心できる環境、「サンクチュアリ」があったかどうかを話し合います。議論をファシリテートするのは、ライファーズの一人レイエス・オロスコです。すると、参加者から傷ついた経験、虐待の経験やレイプの経験が語られ、家庭でさえも「サンクチュアリ」ではなかったことが語られます。

つまり、ライファーズたちは加害者であると同時に、被害者でもあったという姿が見えてきます。

しかし、その後のシーンは、レイエス・オロスコの仮釈放審議会という重たい場面です。これは、レイエスが仮釈放できるかどうかを審議する面接のようなもので、審議委員、弁護士、検察官、被害者遺族が参加できる場になっています。

レイエスは、知人の裏切りに腹を立てて家に押し入り、男性を刺殺してしまった罪で収容されていました。それも、妊娠している妻がいる場所で。レイエスは、のちにそのことに気づいた時、自らの罪の重さに気づいたと語っています。審議委員からも厳しく追求がされます。

「なぜそのような残酷なことをしたのですか?」
「殺人に計画性がありましたか?」
「遺族の気持ちがわかりますか?」などなど。

つまり、この仮釈放審議会の場でのライファーズたちは、やはり残酷な事件を起こしてしまった犯罪者・加害者として映されます。いかなる事情があろうと、決して赦されえない罪を犯していたことを見ている側も知ることとなります。

また、アミティ創設者のナヤ・アービターは、プログラムの安心して本音を語れる場=サンクチュアリを提供しているのはライファーズ(レイエス)自身であることを指摘しています。

「サンクチュアリを提供しているのは、ライファーズ。彼らが変わる姿を見て、他の受刑者が変わりたいと思うようになる。積極的な参加、真の友情、本音を語るリスクを恐れない姿勢、一番辛いことをさらけ出す、この姿勢を通して本音で語れる場を自ら創造している」(アミティ創設者:ナヤ・アービター)

つまり、レイエスは、他の受刑者の更生に良い影響を与えている存在としても描かれています。

さらに、取材はレイエスの両親にも向けられています。レイエスの母親は、昔のアルバムや写真を持ち出して、「この頃のレイエスは純粋でやさしい子だった」と語ったり、家の近所で咲く花を摘んで新聞紙で包んでプレゼントしてくれた思い出などを語ります。
ここでのレイエスは、どこにでもいる母親思いのやさしい息子として見えてきます。

このように、ライファーズ、特に中心的人物であるレイエス・オロスコの多面的な姿が見えてきます。

サンクチュアリ、安心して対話する場をつくる難しさ

アミティのプログラムは、刑務所内に限らず、刑務所の外の施設でも実施されています。

そこでの対話の場をファシリテートするチャールズ・ゴーシュンが登場します。
チャールズは、ある一人の参加者の攻撃的な態度、自らのストレスをまわりに当たり散らす態度をやめるよう諭します。その問題の参加者は、自らが服役中、塀の外で自らの子どもが無残に殺された被害者家族でもあり、その犯人への復讐心が消えないようでした。

そこでチャールズは、自らの経験をもとにこのように語りかけます(だいたい以下のような発言でした)。

「自分自身も報復したい思いでいっぱいの時があった。その時は、まわりが全て敵に見えた。しかし、報復をやめて、被害者の死に敬意を払おうと考えた。やり返しても被害者は戻らないが、死に対して敬意を払えば、自分は同じことはしない、その後の人生を良いことに捧げて被害者の死に報いていくことができる。」

一言一句は合っていませんが、だいたいこのような発言でした。
語りの場が必要なのは、自らの加害体験、被害体験を理解することにつながるからだといいます。この体験と向き合い、乗り越えなければ未来に向けてどう生きていくのかが考えられないのです。

最初のシーンでは、レイエスがいたから、何のためらいもない本音で語る場が作られていましたが、実際にはこのように、安心して語る場=サンクチュアリを作るというのは難しいのだと思いました。ファシリテーションを行うチャールズやナヤ・アービター(アミティ・スタッフ)が自らも服役経験をもつ当事者であることは、その意味で重要です。

また、プログラムの終了後には、円陣を組んで手を中心で重ね、
「ここで語ったことは外には持ち出さない」
という誓いを立てます。これもまた、サンクチュアリを築くための大事な儀式といえます。

赦される者、赦されない者

ライファーズたちが犯した罪は一生消えないものです。

被害者遺族の中には、ライファーズたちを赦し、更生を応援する人もいれば、絶対に赦さないとする人もいます。

本作では、中心的人物であるレイエスは、仮釈放が認められないという仮釈放審議会の決定がくだされます。そこには、レイエスが視察してしまった男性の妻からの手紙が寄せられ、
「自分の大事な夫を奪った人間に、社会復帰をする権利、仮釈放する権利なんてありません。」
と、率直な思いが伝えられます。

他方で、先程のチャールズの弟であるケルビン・ゴーシュンは、
プログラムの中で「被害者と向き合うこと」を課題として出され、被害者に謝罪の手紙を書きました。ケルビンは、身代金目的の誘拐をしていましたが、被害者家族が手紙を受け取って刑務所の中のケルビンの様子を素行調査したようで、罪の意識を感じて更生に向かっているケルビンのことを知り、その手紙の返事において、なんと被害者家族側からケルビンの仮釈放を求める手紙が送られてきたのです。

また、ケルビンの兄チャールズは、ストリートでケンカをしていたところを、仲裁役に入った男性を誤って射殺してしまっていたのですが、チャールズは、出所してから被害者遺族のお兄さんと定期的に会っていました。弟が射殺されてしまったお兄さんが、チャールズに対して発した赦しの言葉がすごいです。

「僕らはみなこの地区で育った兄弟である。ゲットーでは常に何か事故、事件が起きている。チャールズに仕返しをしても弟は戻ってこない。むしろもう一人の弟(=チャールズ)を失うことになる。更生を応援することの方が仕返しよりすっと大事だ」

これまた、一言一句は合っていないと思いますが、加害者であるチャールズを弟と呼ぶ被害者遺族の兄の言葉に、チャールズは涙を流します。チャールズは、自分も本当はライファーズ(罪を一生背負う者)なんだと語ります。

ちなみに、本映画作品中では仮釈放が認められなかったレイエスですが、坂上香さんの著書『ライファーズ 罪に向き合う』(みすず書房、2012年)では、レイエスの仮釈放が認められた様子が書かれています。映画の登場人物以外の姿や、坂上さん自身の問題意識や考えが(映像ではなく)言葉にされているので、こちらも合わせて読まれることを勧めます。

赦し得ない罪を犯し、そのことと向き合いながら、しかし未来を見て更生していこうとする姿を、本作は貴重な映像と取材によって伝えてくれています。

最新作『プリズン・サークル』も非常に楽しみですね。

※参考:映画 「ライファーズ」 の製作における 「変容の物語」[PDF]

(おわり)