2019年8月1日のLivedoor Newsにて「「囚人」によって構成される広告会社が誕生」という記事を見つけました。記事によると、「ConCreates」と称するその会社のPR動画には、
「私たちがいうクリエイティビティとは、アートスクールでいい成績を残すようなものではなく、厳重警備の中でも銀行強盗を成功させる、そんなクリエイティビティだ」
とのコメントがあるとか。以下、その実際のPR動画です。
なんとも挑発的なこの会社は、いったいどのように設立されたのでしょうか。少し調べてみました。
ConCreatesのWebサイトには、以下のような紹介があります。
We Give These Radical Thinkers The Chance To Harness Their Creativity In A Positive Way By Providing Radical Ideas To Brands Looking To Break The Mold.
In The Process, We Hope To Shatter The Stigma Associated With The 1/3 Of The U.S. Population Who Have Criminal Histories, Provide People With A Second Chance To Be Valuable Members Of Society And Reduce Recidivism.
私達は、既存の型を壊そうとするブランドに対して、急進的なアイデアを提供することを通して、このRadical Thinkerたち（受刑者・元受刑者）に創造性を積極的に利用する機会を与えます。その過程で私達は、アメリカの人口の3分の1を占める犯罪歴を持った人たちのスティグマを壊し、社会の成員となるセカンドチャンスを提供することで、再犯を減らしていくことを望んでいます。
創設者のVincent Braggは元受刑者で、彼は刑務所にいる時に、仲間が何もないところから何か―本、音楽、全ての食事―を作ることができることを見ていて、刑務所は創造性の土壌（grounds for creativity）であると認識したようです。彼はマーケティング業界やエンターテイメント業界での経験を生かして、収監中にブランドづくりのシンクタンクを組織したり、ブッククラブを立ち上げたりなど、同じように創造性をもった囚人たちのネットワークを築きました。
そして、Braggが出所する2016年、彼は刑務所で見た数多くの才能に触発され、ConCreates を設立するにいたり、現在、436人の現役受刑者、319人の出所者のメンバーをネットワークしています。
海外の別のメディアでは、このConCreatesの設立の際、Braggは釈放後すぐにDefy Venturesという囚人起業家育成プログラムに参加したことが大きな助けになったことを伝えています。そのプログラムにおけるメンターを介して知り合ったのが、72andSunny New Yorkのエグゼクティブ・ストラテジー・ディレクターであるTim Jonesでした。Tim Jonesは、Braggやそのメンバーのビジョンやストーリーを最初に聞いた時に圧倒されたと言います。
72andSunny自体は、世界各地（アムステルダム、シンガポール、オーストラリアなど）に拠点をもつクリエイティブ・クラスのネットワーク組織のようで、このネットワークと「クリエイティブ囚人ネットワーク」とでも呼べるBragg（Concreates）のメンバーをつないだのです。
冒頭のPR動画で、ConCreates の考えるクリエイティビティとは「銀行強盗を成功させるような創造性だ」と語ったのは、ConCreatesのメンバーの一人が、銀行強盗犯で、その時の戦略の練り方が、一般的な企業の戦略家（Strategist）と同じだったと、Braggは感じたからです。
Braggは、次のように言っています。
We believe that creativity without opportunity is criminality
機会のない創造性は犯罪だと信じている。
We look at drug dealers as entrepreneurs. We look at graffiti artists as art directors.
我々は、ドラッグ・ディーラーを起業家とみるし、グラフィティ・アーティストはアートディレクターだとみなす。
ADWEEK40 ”72andSunny Partners with ConCreates, an Agency Staffed by Current and Former Prisoners“より
誰も考えないようなことを考える。彼らのもつその逸脱性を犯罪に向かわせるのではなく、良いことに向かわせる、楽しいことに向かわせる、そんな事例だと感じました。その時にサポートとして存在したDefy Venturesや72andSunnyのような組織の存在も大きいです。
以下は創設メンバーのインタビュー動画です。
クリエイティブ・チームのみならず、戦略チームをもつConCreatesのチーフ・イノベーション・ストラテジストであるJaneya Griffin（共同創設者）は、16歳の時に両親が共に収監された経験を持っています。母親が出所後、仕事につくことができず、何度も何度も社会から拒絶される様子を見ていて、現在の活動に至っているようです。
様々な当事者とそのサポーターにより組織されたConCreates。今後が期待されます。