映画『プリズン・サークル』特別試写&パネルトーク 報告レポート〜その1

本日は、9月28日(土)に立命館大学大阪いばらキャンパスにて行われた、坂上香監督・最新作映画『プリズン・サークル』の試写会&シンポジウムの報告をまとめたいと思います。

※「プリズン・サークル」の公式ホームページは こちら から。

本作の正式な公開は、2020年1月中旬にシアター・イメージフォーラム(東京・渋谷)から全国を順次まわっていくそうなので、あまりネタバレしないよう気をつけたいと思います。

今回のイベントのプログラムとしては、午前に試写会を行い、午後は坂上香監督を始め、本作の主題である「回復(治療)共同体Therapeutic Community」(※後ほど説明します)のモデルとなった、アメリカの「Amity(アミティ)」の代表ナヤ・アービターさん、ロッド・ムレンさんなどなど豪華ゲストを招いたパネルディスカッションがありました。

ナヤ・アービターさんは、坂上香監督の前作『LIFERS ライファーズ―終身刑を超えて』に登場した、あのナヤさんです。本ブログの前回記事をご参照ください。

 

試写会

では、まず試写会から。

本作の大枠としての理解については、坂上監督の前作『LIFERS ライファーズ―終身刑を超えて』 の「日本の刑務所版」という理解で良いと思います。つまり、受刑者たちが自らの被害体験や加害体験を振り返り、「語り合いの場を通して変化していく姿」を描いたドキュメンタリー作品です。しかし、日本の刑務所での撮影が簡単でないことは、撮影許可をとるのに6年、撮影に2年、足掛け10年をかけて制作してきたその年月が物語ると思います。

舞台となったのは、日本の島根県にある「島根あさひ社会復帰促進センター」と呼ばれる、官民協働のPFI刑務所と呼ばれる施設です。2008年に開かれたこの刑務所には、比較的犯罪傾向の進んでいない男性受刑者およそ2000名が収容されています。

罪状は、窃盗や強盗致傷、性犯罪、薬物などさまざまで、本作にも様々な罪状によって収容されている訓練生(受刑者)が登場します。本作の最初のほうで、いかにも”日本の”刑務所らしいというべきか、整った隊列での行進や、指先まで伸ばした姿勢、点呼の様子などが映されます。

しかし、この施設では他の刑務所では取り組まれていない特徴的なプログラムがあります。それが、「回復(治療)共同体 Therapeutic Community」(通称 TC )です。

配布資料によると、「TCでは、依存症などの問題を症状と捉え、問題を抱える当事者を治療の主体とする。コミュニティ(共同体)が相互に影響を与え合い、新たな価値観や生き方を身につけること(ハビリテーション)によって、人間的成長を促す場とアプローチ」とあります。

イベント 配布資料

 

その定義は理解・想像しづらいものがあると思いますが、映像として見える風景としては、訓練生たちが円になって座り(プリズン・サークル)、その日のテーマ(カリキュラム)に沿って互いに語り合い、時にワークショップ形式で被害者役や加害者役を演じたり、創作の物語をつくってみたり、自身の葛藤する気持ちを一人二役で演じてみたり、といったものです。

それは、支援員がファシリテーターを務めるものの、訓練生たちが主体となって、互いに影響を与え合うものというのが最大の特徴です。実際、訓練生が司会を行う風景も見られます。

これは、前作の『LIFERS ライファーズ―終身刑を超えて』で主に描かれていた、Amity(アミティ)の取組がモデルであり、アミティを推進してきたナヤ・アービターさんもたびたび来日しては、ワークショップや語り合いの場の進め方を指南していたそうです。

そして、島根あさひ社会復帰促進センターでは、訓練生たちにオリエンテーションでこの「LIFERS」を見せているということで、本当に坂上さんの影響は大きいと感じました。

本作の内容は、主に4人の訓練生たちの語り・語り合いと、変容が軸となっています。

最初は、大勢の人前で話すことに戸惑ったり照れたりする訓練生の様子があり、だんだんと本質的な部分、すなわち「自分がなぜ犯罪にいたってしまったのか」に向き合い、その過程で、自分自身の(幼少期の)被害体験を語るなど、自身の向き合いたくないことへと迫っていきます。

けっこうまわりの訓練生たちが本音で互いに語るところに面食らいます。

「罪悪感はないの?」とか、
「自分がされたらどう思うの?」とか
「一番最初に盗んだときはどう感じた?」とか、
わりとズバズバ聞きにくいことを聞いていくんですよね。

それでだんだん答えることに苦しくなってきた時に、涙を浮かべて
「(自分のした)犯罪と向き合いたくない」
とこぼしても、他の訓練生がすかさず、
「向き合いたくないかもしれないけどさ、俺たちは犯罪をしてきちゃったんだから、向き合わなきゃダメだよ……って、だんだん自分に言い聞かせているような気持ちになってきちゃった」
なんて場面も。
※もちろんセリフは正確ではありません。

これは、会場に来ていたTCの修了生たちも言っていたのですが、
TCは初めて本音で、自分の弱さを見せることができた場、弱さを見せる方がかっこいいと思える場だったそうです。

誰かの話を聞いているうちに、自分の経験と重なって今まで言葉にできていなかったモヤモヤが言葉になって理解できるようになったり、自分の経験を誰かに話しているうちに誰かに共感してもらえて自分ひとりだけの悩みでないことを理解したりと、この互いに与え合う影響というのが大きいみたいです。

もうこれ以上はネタバレできませんから、4人の人物の、それぞれ異なる性格で、罪状も違えば犯罪に至ってしまったシチュエーションも当然違い、自身との向き合い方もそれぞれ違い、けれど、それぞれが互いに影響を与えあって変化を遂げていく、そんな姿をぜひ本作で目の当たりにしてください。

個人的には、映画のラストに驚きがあったのですが、言いたいですが、言えません(笑)。

また、後半のシンポジウムでも藤岡淳子先生が述べていたことですが、
TCは、何か学術的な言葉、専門家の言葉で語られてきたわけでもなく、仮に語られたところで体験しないとわからない概念であるとされていました。それを、坂上監督が映像にしてより伝えやすいものにしたことが、前作及び本作の大きな意義とのことです。

午後のパネルディスカッションの様子については、長くなりそうなので、次回記事にまわしたいと思います。坂上監督の撮影舞台裏やその思いが熱く語られました。

※PFI刑務所に関する参考記事
・弁護士ドットコムニュース「PFI刑務所は受刑者の「楽園」 快適空間で充実の更生プログラム、社会復帰意欲の向上へ」(2018年9月24日)

 

 

 

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