お盆の時期は、戦争の時代を振り返る時期でもありますね。
そこで、戦後の混乱期(昭和30年、1955年)の少年院を舞台にした漫画・アニメ作品『RAINBOW 二舎六房の七人』をご紹介します。
基本情報(by Wikipedia)
本作は、2002年から2010年まで『週間ヤングサンデー』で連載されていた作品で、2010年に日本放送でTVアニメとして放映されました。
原作者は『塀の中の懲りない面々』でも知られる安部譲二さん。作画は、柿崎正澄さんです。
安部譲二さんいわく、「愛と勇気の物語」と語っており、安部さん自身の自叙伝とも言える作品だそうです。
主人公は、湘南特別少年院の二舎六房に収監された七人の少年たちで、大まかなあらすじとしては、少年院という理不尽しかない過酷な環境の中を、仲間の絆で乗り越え、さらに出所後(正確には出院後)のストーリーでは、少年たちがそれぞれの道で社会に出ていく様子まで描かれています。
本作が舞台になっている背景として重要なのが、戦後という設定です。このあと紹介する少年たちも基本的には戦争孤児であり、広島での原爆による孤児になった少年や、少年たちの窮地を救うお姉さん的存在の登場人物については、米軍基地を出入りするいわゆる「パンパン」(娼婦)と呼ばれる存在であったり、そんな時代背景が垣間見える作品となっています。
また、本作に登場するようなハグレ者の少年たちの受け入れ先としてヤクザの社会的な役割も感じられます。
※戦後混乱期の戦争孤児、浮浪児の参考記事
- 戦後の浮浪児については、ノンフィクション作家の石井光太さんが現代ビジネスにて記事を書いています。「餓死、物乞い、スリ…戦争が生み出した「浮浪児」その厳しすぎる生活」(2019年8月13日)
- NHKでも戦争孤児についての特集記事が組まれています。「わたしはどこの誰なのか、戦争孤児をはばむ壁」(2019年8月13日)
- 書籍:石井光太『浮浪児1945‐: 戦争が生んだ子供たち』[2017年、新潮文庫]
見どころ:個性あふれる登場人物たち
本作の一番の魅力は、登場人物たちがそれぞれ個性が際立っており、それぞれにドラマがあるので見応えがある点です。
主要な人物について、順に紹介していきたいと思いますが、ネタバレしすぎないよう、あっさりした紹介になります。主要な人物の紹介は、アニメだと第1話でなされますので、Youtubeなどにあがっている第1話をご覧になることもおすすめします。Huluでも見られるようです。
※Youtubeはこちらから。
桜木六郎太:通称アンチャン
第1話で、少年6人たちが二舎六房に収監されるわけですが、先に入所していた先輩的な存在がこのアンチャンこと桜木六郎太です。第1話で少年6人を相手に打ち負かすケンカの強さ、ボクシングの強さを誇っており、ボクシングの世界チャンプになることが夢です。男気があり、優しさがあり、とにかくみんなが頼りにする、本当に兄貴的存在で、こんな男になることに憧れる人も多いのでは。
看守の石原に目をつけられており、とにかく理不尽な暴力にさらされまくるのですが、耐え抜く強さと冷静さをもっています。
水上真理雄:通称マリオ
短気でケンカっ早いところはあるけれど仲間思いで、出院後はアンチャンの意志を継いでボクシング・チャンピオンを目指す存在になります。アニメ版での声優は小栗旬です。看守の石原が、アンチャンの出所を阻もうと、暴力的な連中が多い舎房に移してアンチャンは毎日リンチをうけます(やり返したら問題行動として出所を伸ばすという石原の企み)。耐え続けるアンチャンを思ったマリオは、アンチャンをリンチする連中との交渉で左手を犠牲に差し出し…それまで耐えてきたアンチャンは怒り狂い…というようなアンチャンとは一番の兄弟的な存在として描かれます。
出院後は、チャンプを目指す一番の主人公的な存在として描かれるようになっていきます。
前田昇:通称スッポン
スッポンの由来は、一度噛み付いたら離さないところからきています。広島の原爆によって孤児となり、出院後に放射線による病気!?に抗いながら自らの道を進もうとします。出院後、金貸し業を営むおじいさんと出会い、スッポンも金持ちになる夢を目指して金貸し業を始めますが、当然ながら貸した金の回収業やなんかは簡単なはずがなく、しかし、そこは一度噛み付いたら離さない「スッポン」の強みを武器に乗り越えていきます。
遠山忠義:通称ヘイタイ
通称の由来は兵隊になる夢からきています。母子家庭に育ち、父親は軍人だったといいます。
無口で寡黙なキャラですね。ですが、実は頭がキレるし、熱い思いもあるし、ひそかに大事なキャラクターです。自衛隊に入隊することで早く出所しますが、二舎六房の大切な仲間を守れなければ「兵隊」じゃないと、仲間を助けるために罪をかぶって再び刑務所に入り、自衛隊は除隊となってしまいますが、ジョーの妹と結婚し、最後は看守になるなど幸せを得てもいきます。
野本龍次:通称バレモト
詐欺横領などの罪で捕まっていて、通称は「バレてモトモト」を座右の銘(?)としているところからきています。父親は満州で戦死しており、終戦直後、食料と引き換えに農家の男に抱かれた母親を見て人間不信になっていて、作品の最初の方ではかなり疑り深く、仲間意識をもつことに時間がかかります。
出院後は、弁護士を目指して勉学に励みますが、童貞だったことを気にしていたりちょっとスケベだったりで、女部屋に入り浸るようになり、仲間から勉強のためにと借りたお金も女に注ぎ込んじゃったりなどダメ男な場面も多いです。しかし、ここぞという時に泣いて頭を下げて仲間を守ったり、機転を利かしたり、大事な存在です。
横須賀丈:通称ジョー
名前の通り、ジョーです。米国と日本のハーフで、金髪と青い目をもつ一番の美男子です。その美貌ゆえに、様々な場面で性的対象とされてしまいます。幼少期から孤児院で育ちますが、女院長から性的虐待を受け続け、入所後は、医師の佐々木に目をつけられます。しかし、出院後はその美貌を武器に歌手を目指していきます。
松浦万作:通称キャベツ
通称の由来は右肩の岩牡丹の刺青がキャベツに見えることから。大柄だけれど気弱で心優しい存在です。出院後、他の仲間と比べてなかなか自分のやりたいことを見出だせないながら、ヤクザに身を置いてみるものの、優しすぎてダメだということになり、ヤクザの仲介でプロレス団に入り、プロレスラーを目指していくことになります。
石原:湘南特別少年院の看守
典型的に嫌な看守で、二舎六房の敵として立ちはだかる存在です。ある事件の真相をアンチャンに知られているため、特にアンチャンへの当たりがきつく、第一話から二舎六房たちへの見せしめとしてアンチャンへの鞭打ちをします。ですが、どんなにいじめ抜いてもアンチャンの方が精神的に勝っているというか、石原の思いが晴れることはなく、むしろ恨みを増していくような感じです。
※現実にも看守の暴力による事件は起きています。本作品は、フィクションですし、しかも過去のことではありますが、しかし、現実にも似たような事件はごく最近にも起きていることを思い起こさせます。もちろん、親身に受刑者に寄り添う看守もいますが…。
- 「甘く見られないよう」受刑者に熱湯 看守を懲戒免職(朝日新聞、2019年7月26日)
- 刑務所で放水、受刑者ショック死…元看守2人の再審認めず 名古屋高裁決定、弁護側は特別抗告の意向(産経WEST、2017年3月15日)
佐々木義助:湘南特別少年院の嘱託医師
収監されている少年たちを夜な夜な自室に呼び出しては犯す、ヘンタイ医師。
第一話では、入所してくる二舎六房の少年たちを嬉々として肛門チェックを行います。さんざんな嫌がらせを少年たちに行うのですが、後半で少年たちからの逆襲を受けます(笑)。
※別にモデルがいるとはどこにも書かれていませんが、過去に徳島刑務所で暴動が起きた時、発端となったのは、医務課長が受刑者に対して行っていた虐待(肛門への虐待)です。
wikipediaにも詳しく紹介されています。こちら。
リリィ:パンパン(娼婦)
米軍基地に出入りする娼婦(パンパン)。二舎六房の少年たちにとっては、味方であり、お姉さん的存在です。地位の高い将校の愛人であり、その立場を活かして7人の窮地に便宜を図りますが、米軍が母国へ引き上げる際、自身もアメリカへ行けると思っていたが裏切られ、財産を含め一度は全てを失ってしまいます。しかし、やがて自分の店を持つようになるまで立て直します。
以上、まだまだ重要なキャラクターがいて、それぞれにドラマがあるわけですが、主要な人物は紹介できたかと思います。理不尽な暴力、社会状況を家族以上の絆でもって助け合いながら乗り越えていく名シーンばかりです。
アニメバージョンの各話のあらすじは、本作のWebサイトが参考になります。